100アリアリの価値
私はマダガスカルのほぼ中央に位置するアンバンヌという村に住んでいます。ここでは車よりも牛車の方が多く、村人は日が昇る前に起きて沈むと寝る(5時に起床19時に就寝)というシンプルな生活を送っています。そんな村人の楽しみは世間話。道端やカフェでよく世間話をしています。外国人の私は珍しく、格好の話題の対象です。そういう状況になることは覚悟して来たのですが、生活は想像以上に厳しく、赴任後いつも帰りたいと考えていました。
そんな思いを抱きながら任地で毎日を過ごしているときに、日本で大震災が起こりました。ふるさとの福島県も災害に遭ったと聞き心配でたまりませんでした。首都アンタナナリボに行き、やっとのことで両親の安否が確認できました。少しほっとしたものの不安な気持ちが消えないまま任地に戻ってみると、日本の震災のニュースは村にも伝わっており大きな話題になっていました。しかし、このような状況でも日本人と知りながら私に対してお金を乞う人がいたのです。任地の人に失望を感じ、ただでさえ厳しい生活条件の中で活動を続けていかなければならないことに心が折れそうになりました。
そんなときにすてきな出来事が起こりました。私が予防接種の介助を終え休憩していたときのことです。隣には、子どもを抱えた若いお母さんが座っていました。私たちは自然と話を始めました。すると突然、このお母さんが100アリアリ(現地のお金)を差し出すのです。私は最初、理由が分かりませんでした。よく聞いてみると、日本の震災のことを知り渡そうとしてくれていたのでした。
彼女を見ると、服はボロボロで、はだしです。そして、これから子どもを抱きながら2時間かけて歩いて帰るのです。この100アリアリは、日本円では5円相当ですが、任地では米粉のお菓子1個とコーヒー1杯を買うことができ、また、食卓のおかず1品分の価値があります。それでも彼女が渡そうとした気持ちを考えた時、それ以上の価値をもっているように思えて胸が熱くなりました。断ることはできませんでした。そして、残りの任期の活動を全うしたいと思うようになりました。
人の心の温かさは、人種や言葉を超え人に勇気や元気を与えてくれる。そのことを知ることができた貴重な経験でした。私は今、「栄養改善キット」という教材を使って、村の人たちに対して、バランスの良い食事を取るための指導をしています。今度は私がこのお母さんのように心の温かさを大切にし、任地の人の助けになるような活動を行っていこうと思います。

乳幼児の体重測定後、バランスの良い食事について学んで試食

任地の保健ボランティアの家庭訪問

医師(右)による衛生指導

「栄養改善キット」を用いて啓発活動を行う