「中米広域防災能力強化プロジェクト"BOSAI"」の活動報告より(1)-更生した青年-

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コスタリカの首都サンホセ市の北西140キロメートルのところに、ニコヤ湾にそそぐ中級河川のカーニャス川がある。その沿岸のオテルコミュニティー(72戸、人口約600人)では、防災プロジェクトの活動が活発に行われている。その中の一つの活動を通して、住民から白眼視されていた青年が、人々の信頼を得て、更生した事例を紹介する。
 ◇   ◇
住民は毎年、カーニャス川の洪水に悩まされており、このコミュニティーからプロジェクトに対して、堤防建設の強い要望があった。住民の多くは近くの大規模なサトウキビプランテーションで働いており、そこから毎年、使用済みタイヤが大量に廃棄されることを知っていた。ある時、プロジェクトのJICA専門家(筆者)は、コミュニティーの防災責任者から、その古タイヤを利用して堤防建設ができないかとの相談を受けた。専門家は現地を調査し、プロジェクト活動の一環として、住民参加型の堤防建設を提案した。


コスタリカ国家防災機関とカーニャス市、同市に配属された青年海外協力隊も加わり、コミュニティーの防災委員会によるワークショップが何度も開催され、2009年4月上旬に建設実施が決定した。しかし、古タイヤを利用した堤防建設は前例がないことから、本格的な建設の前に、初年度は試験的に長さ約24メートルの堤防を建設することとなった。


試験工事は4月27日から開始され、6月12日に完工した。工事延べ日数は35日。この間の工事動員数は延べ約840人だった。


この試験工事に最初から最後まで参加した青年がいた。極めて暑い日でも、彼は重労働をものともせず、黙々と働き続けた。専門家も彼の存在に気が付き、ある時、重要なモルタルの流動性試験(注)の結果を記録するよう彼に依頼した。その2、3日後、コミュニティーの防災委員会からその青年に記録を取らせることに異議が出て、コーディネーターを通して、専門家に反省を求める声が伝えられた。曰く、「彼はこのコミュニティーで罪を犯した者であり、彼に記録を付けさせて工事を進めるならば、われわれはこれ以上工事に参加しない。恐らく彼は工事材料を盗もうとしているに違いない」とのこと。しかし専門家は、あえてこの意見を無視して工事を進めた。毎日工事に参加していなければ、できない作業だったからだ。


その後、コーディネーターより、工事に参加する人数が減少したとの報告を受けた。振り返ってみると、共に仕事をしている住民と彼の間には会話がほとんどなく、彼一人が孤立しているようにも感じられた。しかしながら、工事が終わりに近づくに従って、参加人数は回復し、完工日を迎えることができたのである。


試験工事完了式典が盛大に行われ、その時点では、その青年に対する住民のわだかまりが少し解消し、青年と会話する住民も増えてきている様子がうかがえた。これは、青年が工事を通して人々から信頼を回復した証左と容易に想像できる。コミュニティー活動を通して、一人の青年が更生したのだと実感した。これも、本プロジェクト実施の陰に隠れた成果の一つであり、キャパシティ・デベロップメント(人材育成)の一端ではないだろうか。


工事終了後しばらくして、その青年は中断していた学業を再び開始し、夜間中学校へ再入学したと、コーディネーターを通して聞いた。専門家には、青年の心境の変化は分からないが、この試験工事に参加し、社会のために自分も立派に働けるとの自信を回復したことと、想像に難くない。そういえば、工事終了後、その青年が専門家に「もし他のコミュニティーで同様の堤防建設の要望があり、JICAの派遣許可があれば喜んで技術指導に行きたいし、ここで建設技術を学んだので、自分は指導できると思う」と言ったことが強く印象に残っている。 (2)に続く


(注)モルタル(セメントと水と砂を混ぜ合わせたもの)の流し込みやすさを測る試験。


※「中米広域防災能力向上プロジェクト"BOSAI"」は、洪水や土砂崩れ、地震などの自然災害のリスクにさらされている中米カリブの6ヵ国(エルサルバドル、グアテマラ、コスタリカ、ニカラグア、パナマ、ホンジュラス)を対象として、2007年に開始された技術協力。
中米広域防災能力強化プロジェクト"BOSAI"ウェブサイト


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タイヤを運ぶ住民

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建設が進む古タイヤ堤防。住民参加で建設する点を考慮し、設計・施工に工夫がなされた(中央は筆者)

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力を合わせてタイヤを積み上げる


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堤防工事のひとコマ

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住民から工事への参加を拒否された青年(右)

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完成した堤防。工事を通じて得られたノウハウは今後、プロジェクト対象の6ヵ国に伝えられていく

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