蚊帳ハウス、点滴灌漑、自然にやさしい野菜栽培
中米のエルサルバドルは、熱帯多雨林気候に属します。特に太平洋沿岸の平野部は高温多湿で、年間を通してほぼ毎日、最高気温が30度を超えています。12月から3月までは比較的、降水量が少ない乾期ですが、それ以外は日本でいう真夏で、暑くてじめじめした気候です。サトウキビ、イネの栽培には適したところといえますが、これまでは、野菜栽培は難しく、病害虫の被害が多いため商品価値が高い野菜はつくれないだろうと考えられてきました。
しかし、数年前から大きな蚊帳(かや)、いわゆる防虫ネットを使ったハウスでの野菜栽培が始まっています。ハウスの出入り口は、二重扉にし、消毒液層をつくって病害虫の進入を防ぎます。かつて、JICAが実施した「農業技術普及プロジェクト(1999~2004年)」の関係者や日本で野菜栽培を学んだ技術者たちが、ハウス栽培の大きな原動力となっています。
雨期であっても、ハウスの中は雨が降りません。そのため、点滴灌漑(かんがい)が使われています。野菜の生育に必要な時に必要なだけ根水を与える節水灌漑システムのことです。点滴がポツンポツンと落ちるように、チューブの小さな穴から出た水滴が、作物の根に浸透していきます。
しかし、ここは熱帯。昼間はハウスの中も40度を超える暑さが続きます。植物がぐったりし、元気がなくなってしまうこともあります。そこで、ハウス内にはミスト機が設置されており、気温が上昇する昼間は、数回にわたって人工の霧を発生させます。これでハウス内の温度を6度から10度ぐらい下げることが可能となります。
現在、「東部地域零細農民支援プロジェクト(2008年3月~2012年3月)」が実施されており、1980年から2002年まで続いた内戦のつめ跡が大きいエルサルバドル東部地域の小農を対象に、有用土壌微生物(注1)や有機資材(注2)を活用した自然にやさしい野菜栽培の導入と、それぞれの農家の規模に合ったさまざまな施設栽培技術の開発・普及を行っています。自然にやさしい野菜栽培は、地球温暖化対策に貢献できる(注3)と注目されていますが、農場内に住んでいる家族にとっても安心で、家族農業を行う小農向けともいえます。
これらの技術は、普及員から各地のリーダー農家へ伝えられ、農家圃(ほ)場を学び舎(や)とした農業学校を通じて、リーダー農家から周辺農家へと伝えられていきます。このプロジェクトでは、これと並行して、農業経営改善、生産者の組織化、市場開拓、バリューチェーン(注4)構築の支援を進め、生産から販売、流通まで一貫して小農を支援できる国家制度の整備を目指して活動しています。
(注1)土壌中に生息する微生物の中で、作物の病気の原因となる菌の生育を抑えるもの、有害なガスを処理するもの、窒素固定をするもの、ホルモン物質や養分となる物質を作り出すものなど、作物の生育を促進する働きをする微生物群。
(注2)農業生産で肥料として使われる有機物のこと。畑の作物や緑肥を漉き込んだり、油かす、米ぬか、海草などを肥料として使ったりする植物性のものと、家畜などの排泄物や魚粉を肥料として使う動物性のものがある。
(注3)有機農業は、化石燃料を使って生産する化学肥料に比べ、肥料生産時にCO2の排出がほとんどないこと以外に、土壌に有機質をバイオマスとして取り込んだり、土壌中の微生物の活性化を図ったりすることから、炭素の固定化に貢献しているといわれている。
(注4)原材料の調達から製品・サービスが顧客に届くまでの連鎖的な活動によって最終的な価値が生み出されるという考え方(広報室)。

大型の蚊帳、ネットハウスでの農家研修会(ヒキリスコ地区)

ハウス内の点滴灌漑チューブ(ウスルタン地区)

ハウスでピーマンを収穫(ウスルタン地区)

自然にやさしい農法を進める農家の子どもたち(オシカラ地区)

リーダー農家による減農薬栽培の説明(オシカラ地区)

有機資材づくりの実習(ヌエバ・グアダルーペ地区)