住民の未来のために

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 「シャーガス病」。土壁や草葺きの家屋に住む全長3cmほどのサシガメという吸血性の虫を媒介とし、個人差はあるが10年から20年後に心臓疾患などを起こし、やがて死に至るという中南米特有の熱帯感染症の一つ。「貧困層の疾病」「忘れられた病」とも言われる。日本で育った私には、まったく縁のない病。もし協力隊に応募しなかったら、グアテマラに来なかったら、おそらく私にとって一生関わることのない存在だっただろう。

 そんな私がグアテマラ保健省のチキムラ県事務所に赴任してから、約1年半が過ぎた。「サシガメを見つけたら届けてほしい」。自分の家の中を探すことでの彼らへの感染予防、生息状況把握などのために、研修の際に言う決まり文句の一つ。去年1年間は同僚たちと共に保健所職員、教員、村の住民などへシャーガス病の研修を中心に実施したこともあり、事務所へのサシガメの届け出は前年を遥かに上回った。私たちの活動にも何らの反応があった。そう思うと嬉しい気持ちにもなる。

 だからと言って、手放しで喜ぶことなどできない現実が目の前にある。事務所には一つの家屋から何十匹ものサシガメが届くこともあれば、血を吸いパンパンに膨らんだサシガメが届くこともある。袋を開けた瞬間、鼻につく悪臭。背筋に寒いものを感じながら、ふとその向こうにある世界を想像してみる。いったい私たちは彼らの期待にどれだけ応えられているだろうか。

 「虫がいる」=「散布が必要」、対策の初期では総体的な虫の数を減らすために有効な手段であるが、根本的な解決方法ではない。家屋内の衛生、住居改善、サシガメ発見後の届け出など、大切なのは「刺されない」ようにすること。彼らが、私たちが変わらなければ、これまで使用された大量の殺虫剤も散布作業員たちが山道を歩いた距離、時間、その汗も結局何の意味もなさない。

 研修をすることで、サシガメの届け出が増えたり、学校でイベントが開催されたり、すぐに目に見える成果として表れる活動は、私たち自身の満足感が得られやすい。しかし、その根底にある日々の仕事、データをきちんと管理する、優先順位を考慮して計画を立てる、協力者を増やすなど、すぐに成果として表れない部分を強化すること、それが何より対策の近道でもあるのだろう。

 「村落にはたくさんの病気が存在しているし、虫対策だけを進めて何になるのかと思うこともあるかもしれない。でも、栄養失調状態の子どもたちの血を吸わせない、今もこの虫と共に住んでいる人たちの感染の危険性を少しでも減らす。もし虫に刺されなければ、それだけで彼らの選択肢が増えるかもしれない。だからこそ対策を進めることに意味はあるのではないか。」

 印象に残ったある人の言葉。私に残された時間はあと約半年。全てを変えることなど私には到底できないが、少しでもそのお手伝いができればと思う。

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シャーガス病検査で陽性が出た子どもの家を散布中

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散布作業員たちは、車では行けない集落へ行くために山を歩き、ときに川も渡る

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散布作業員が家屋の散布後、紙芝居の教材を使って住民にシャーガス病の簡単な説明をしている


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サシガメが住みそうな典型的な家屋の中。私は何から話せばいいのだろうか

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村の子どもたちはいつも元気。彼らからパワーをもらう。大切にしたいひととき

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シャーガス病予防ポスターのコンクール優勝者。子どもの可能性は無限だ

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