アメリカの貧困と献身精神
アメリカの人が一年で一番心待ちにしているお祝いはクリスマス。街はきらめき、彩られ、音楽が流れ、たくさんのプレゼントを抱えた人が行きかい、誰もが楽しそうです。アメリカ人にとってクリスマスは日本のお正月に近く、親族が一堂に会し、家族団らん食事をし、幸せに感謝する日です。もちろん、さまざまな宗教や思想が共存している国なので、祝わない人もいますが。
さてクリスマスといえば、ディケンズの名作『クリスマス・キャロル』を思い浮かべる人も多いでしょう。クリスマスの夜に、ケチで頑固な男(スクルージ)のもとに精霊が現れ、過去・現在・未来の自分のみじめな姿を見せられ、心を入れ替えて、慈悲や人間愛といったキリスト教の精神を持つようになる物語です。金銭欲の行く末も悲惨ですが、貧困の果ても悲しく描かれています。
私の働く世界銀行のあるワシントンDC近郊の某中学校では、この本を教材に、貧困について考える授業を取り入れています。本を読んだ後、生徒たちは自分の住むコミュニティにおける貧困を調べ、どのようなニーズがあり、それに対してどんな支援ができるのかを考えます。これは、「奉仕学習(Service Learning)」と呼ばれており、アメリカのあらゆる教育課程において組み込まれている授業です。奉仕学習を通して、子どもたちは社会的責任を果たす道徳的な人間になることを教わり、ボランティア活動や募金活動、啓蒙リボン(Awareness Ribbons;有名なのはエイズの赤いリボンでしょう)、Peace Corpsなどに代表されるような社会奉仕を自然に実行します。
アメリカ人の献身精神は、慈善・社会奉仕を説くキリスト教文化が大きく影響しています。また、民主主義・自主独立の精神や、税金対策という現実的な理由も背景にあります。しかし私が考えるに、アメリカの貧困率の高さも大きな要因ではないかと思います。OECDの2005年の報告書によると、アメリカの貧困率は17.1%で、OECD27カ国中メキシコに次いで2位でした(日本は15.3%)。また、アメリカの国勢調査局によると、2005年度の貧困率は12.5%でした。相対評価を行うOECDと絶対評価を行う国勢調査局では算出方法が違うので数値が異なりますが、先進国の中で貧困率ワースト1位という結果になっています。
ワシントンDCは、全米貧困州ワースト5に入ります。世銀の前にも、路上生活者が多数暮らしています。就労の機会が与えられず犯罪に走ったり、十分な医療を受けられなかったり、シングルマザーになってしまう人もいます。『クリスマス・キャロル』を授業に取り入れていた中学校の生徒たちは、貧困にあえぐ人々を生活の中で目の当たりにしているのです。この状況をどうにか変える必要があるという意識は、必然的に芽生えるのではないでしょうか。
世銀は"World free of Poverty"を信念に活動しています。本部ビルが貧困率の最も高いアメリカに本部を置いているのは、別のメッセージがあるような気がしました。

世界エイズデーに世銀ビルにかけられたレッド・リボン

国会議事堂とツリー

世銀ロビーの万国旗クリスマスツリー