JICAとNGOの連携事例-インド農村の参加型開発の現場から-
JICAが実施する草の根技術協力(草の根パートナー型)の「マハラシュトラ州プネ県における貧困削減のための農村開発事業」を通じて参加型農村開発を行うNGO、ICAインドの活動地、インド中部のマハラシュトラ州プネ県を訪れました(写真1)。プネ近郊の山間部に位置するカンブリ村、カッタルカダク村など隣接する4つの村が、ICAインドの事業対象地となっています。
ICAインドはこれらの農村で「酪農の振興」「牛糞を燃料とするバイオマスガスの普及」「灌漑(かんがい)施設の整備」「林業の振興」という4つのアプローチで、農民の所得向上を後押ししています。
「酪農の振興」については、4村に散らばる小規模酪農家を株主として、ICAインドの指導の下に酪農組合が組織され、自立的な運営を目指しています。JICAの資金支援を受け、カンボリ村のヒンドゥー寺院の隣にある集荷センターには牛乳の冷蔵設備(写真2)が設置され、近隣の市場へ牛乳を安定的に供給できるようになりました。近隣地域の牛乳の需要は高いそうで、事業規模を今後さらに拡大すれば、酪農組合が利益を確保できるようになり、組合の運営が軌道に乗るのも時間の問題でしょう。
また、ICAインドの活動を語る上で欠かせないのが、再生可能なエネルギーであるバイオマスガスの普及です。バイオマスとは、ここでは牛糞を指します。ドーム型の地下設備に牛糞を溜め込み、太陽光による熱で発酵させ、メタンガスを発生させます(写真3)。このガスを家々に供給し、調理の燃料として利用するのです。このバイオマスガスの導入により、台所の火力をそれまでの薪(まき)(写真4)から、バイオマスガスによるコンロ(写真5)に転換することで、煙にまみれて炊事をしていた女性の目や肺への健康被害が少なくなります。
また、バイオマスガスは二酸化炭素を排出せず、環境負荷が少ないエネルギーでもあります。薪を取るためには近隣の森林が伐採されるため、薪に代えてバイオマスを利用することは、温暖化防止や環境保全に大きく貢献するものといえます。バイオマスガスを導入した家を何軒か見学させてもらいましたが、どの家庭でもかなりの頻度でバイオマスガスのコンロが利用されており、「便利だ」「満足している」といった声も聞かれました。
ICAインドの活動特徴は、住民の意思を尊重し、大切な決断を当事者である地域の住民に委ねるところにあります。基本的には、人々の「豊かになりたい」という願いをガイドし、プロジェクトの進行を手助けするだけです。酪農組合の結成と酪農の開始も、すべて住民が集会を開いて自ら決定したものです。ICA インド代表のシャンカールさんは、気さくでだれとでも対等に接し、なおかつ非常に聞き上手な人でした。村人との集会でも、このシャンカールさんのファシリテートのうまさが遺憾なく発揮されていたように感じます。ICAインドの成功の秘訣は、この点にあるのではないかと感じました。
この村で「参加型開発」の一つの理想的な実践の現場を見ることができたと思います。また、ICAインドという組織そのものに関しても、シャンカールさんは、日ごろから、だれでも気兼ねなく意見を言える組織づくりを心がけているそうです。ここに、一人のNGO活動家の揺るがない哲学を見たような気がしました。

写真1:マハラシュトラ州プネの風景

写真2:JICAの支援を受けて設置された集荷センターの牛乳の冷蔵設備

写真3:牛糞をドーム状の地下設備(左)に溜め込み、太陽光による熱で発酵させ、メタンガスを発生させる

写真4:薪を使った台所

写真5:バイオマスガスを導入したガスコンロを使う村人