「国づくり」の重み
2011年9月、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸の各地では、赤、緑、白、黒の4色旗が街を包んでいた。9月末から開催されている国連総会に合わせ、パレスチナは「国家」としての正式加盟を安全保障理事会に申請。国を挙げてのキャンペーンとして、各地で加盟を求めるデモや集会が行われた。
パレスチナが国連への加盟を目指す背景には、イスラエルとの和平交渉の行き詰まりや長期の占領から来る閉塞感がある。例えばパレスチナでは、井戸を掘るにもイスラエルからの許可が必要だが、生活にどうしても必要な水を得るためであっても許可はなかなか下りず、イスラエルから水を買って暮らしている。
基礎インフラの管理権を含め、主権が十分に認められていないため、関連する法律や社会制度を設計・整備しつつダイナミックに開発を進めていくことが困難な状況にある。パレスチナは国連で国家としてのステータスを得ることで、今後の和平交渉や自らの社会開発を有利に進めていきたい考えだ。
一方、現地では、国としての機能がまだ十分でないという声も聞こえてくる。「国連でいくらか前進があるかもしれないけれど、楽観はできないわ。私たちはまだ国として十分な力がないから」―。母子保健リプロダクティブヘルス向上プロジェクトの一員であるパレスチナ人スタッフはこう言う。「今、すべての主権を手にしても、何もかも自分たちで整備していくのは難しい」。
パレスチナでは、医療施設間の連携システムが十分でないことや、母子の健康に関する知識不足、長引く占領状態や移動制限の中、母親が継続的に同じ病院に通えないことが問題となっている。
こうした問題を解決するため、JICAは、パレスチナ保健庁や病院と共にアラビア語初の母子手帳の作成・導入や医療サービスのシステム改善に取り組み、また、市民向けには手帳の普及・啓発活動をサポートしている。
「パレスチナの政府や省庁はもっと運営・実施能力をつけなければいけない。市民も、和平や未来をあきらめて日々を過ごすのではなく、今を変えるという意志を持って前向きに行動することが必要だと思う。私は、母子保健プロジェクトを通じて、パレスチナの社会に良い変化を起こせることを学んだ。パレスチナ自身がしっかりした国になるために成長していかなくては」
ステータス、いわば箱としての「国家」と、その中身を育てる「国づくり」。「国家」として世界に認められ、主権を持つことが60年以上も困難であり続けてきたパレスチナでは、少しずつでも前向きに「国づくり」を進めること、それを支援していくことの意味は大きく、重い。
「JICAの仕事は国づくり」という表現をよくする。しかし、その本当の意味が分かったのは、パレスチナに来たからこそだと感じる。

ヨルダン川西岸地区のラマッラ市街にはためくパレスチナ「国旗」

キャンペーンの中には、国連議席に模した椅子も登場

イスラエルが建設している分離壁によりパレスチナは封鎖されている

母子手帳を手に診察にやってきた母親と子どもたち

母子保健プロジェクトのパレスチナ人スタッフ。ラマッラ市街にて